65.朝鮮の仏教史

朝鮮に仏教が伝来したのは三韓時代(紀元前2世紀〜4世紀)になります。三韓とは朝鮮半島の南部に存在していた、馬韓(のちの百済)・辰韓(のちの新羅)・弁韓(のちの任那)をいいます。さきにのべたように、中国では五胡十六国時代から南北朝時代になります。

『日本書紀』には百済・新羅・高句麗の三国を三韓とよんでおり、この高句麗の小獣林王の2年(372年)に、中国の前秦の符堅王が順道を遣わし、仏像や経典を贈ったことが始まりといいます。この12年後の384年に百済に仏教が伝わります。この年は枕流王即位の年で、中国の東晋から摩羅難陀が来て宮中に迎えられています。こののち、日本に仏教が伝えられたのは、百済の聖明王(523〜552年在位)のときです。

新羅には遅れて法興王14年(528年)に公認されています。新羅には高句麗から伝えられたといい、法興王(514〜539年在位)と、次の真興王(540〜575年在位)は仏教を庇護し興隆させています。武烈・文武王(661〜680年在位)の時代に唐との交流を深め、676年に百済・高句麗を支配し統一新羅となります。

 三韓時代の仏教については不明なところが多く、この時代は、「三論宗」・「律宗」・「涅槃宗」がはじめに伝わり、ついで、「円融宗」・「華厳宗」・「法性宗」が伝わったといいます。ほかに、「法相宗」・「小乗宗」・「海東宗」・「神印宗」などがみられます。高句麗の仏教は北中国との交流が深く、百済は南中国と交流が深かったといわれているので、仏教の影響にも地域性がみられると思われます。また、三国における仏教の受容は、その後の律令制度とともに、国家を統治する役割を果たすようになったといいます。

三国時代末期から統一新羅初頭にかけて、元暁(617〜686年)は、240巻の著作を残し「華厳学」の研究に専修しています。弟子の審祥日本に「華厳宗」を伝え、東大寺を始めとする南都の諸寺院に影響をあたえました。元暁と同じ時代に、義湘(625〜702年)は660年代に唐へ入り、「唐華厳宗」の第2祖智儼に学び、671年に新羅に帰国します。勅命により太伯山に浮石寺を建立し、新羅における「華厳宗の祖」となっています。

新羅(669〜935年)の仏教は、はじめは「華厳宗」が栄えていましたが、神秀の「北宋禅」が信行(704〜779年)によって伝えられてからは「禅宗」が盛んになります。後に「禅門九山」といわれる寺院が建立されましたが高麗に滅ぼされます。

日本の奈良時代(708〜781年)にあった「成実宗」は、朝鮮から経由したといわれ、百済の道蔵(?637〜721〜?)が、日本に来て「成実論」を講義しています。中国における「成実宗」は、すでに天台大師によって排撃され、600年ころには衰えていたといいます。

高麗(936〜1392年)の国王も、ひきつづき崇仏を基にして仏教を外護しました。寺院の建立や、「僧科」という僧侶の階位を設けて僧侶を育成しています。第8代の顕宗(1010〜1031年在位)から、『高麗大蔵経』の彫印が始められ、第11代文宗(1047〜1082年)のころに完成しました。この初版の「大蔵経」は5048巻あり、版木を符任寺に所蔵していましたが、1232年に蒙古の侵略により消失します。この後、38年をかけ1251年に出版されたのが、6529巻の『高麗大蔵経』です。この「大蔵経」の版木は海印寺に所蔵されており、日本の明治の『縮刷大蔵経』や、『大正新修大蔵経』の底本となっています。

しかし、従来の「華厳」と、新たな「禅」との対立がおき、文宗の第4子の義天(1054〜1101年)は、宋に入り慈弁から「天台学」を学び、「天台」と「華厳」の教理による、「禅」を包摂する解釈を試みます。結果的に義天の教えは「天台宗」として継承され、高麗の王室などに支持されました。仁宗(1123〜1146年在位)のときに、妙清が道教を仏教に導入したため儒者の排撃を受けます。

 義天の半世紀ほど後に、知訥(1158〜1210年)が、「禅」を主体として「天台」・「華厳教学」を包摂する教えを説きます。これは、「参禅」に意義をみとめるもので、「曹渓宗」として継承されます。いご、「禅」の教えは民衆に支持され、現在の韓国仏教の主流となっていきます。

高麗中期以降、仏教界はこの「天台宗」と「曹渓宗」が主流となっていましたが、権力と結びついていた「天台宗」は次第に堕落していきます。徐々に上流階級からも批判されるようになります。

元宗(1260〜1274年在位)のころに、朱子学が栄え廃仏の運動が起きます。そして、李朝(1393〜1910年)に入りますと、太祖李成桂は朱子学を信奉し、儒教を国教としたので、仏教は徹底的に弾圧されます。李氏朝鮮時代の「排仏運動」と、儒教の隆盛により、李朝500年の仏教界は、国王の外護を失い衰微していくことになります。