87.法華経                                    高橋俊隆

『法華経』は漢訳に六訳があります。しかし、三存三没といって伝来したのは三訳の『法華経』です。存在している三経典の特徴はつぎのとおりです。

正法華経』

・訳者  竺法護
・訳出年 二六八年
・構成  一〇巻二七品
・特徴  読み下しが難しい漢
文で長文

『妙法蓮華経』

・訳者  鳩摩羅什
・訳出年 四〇六年
・構成  七巻二七品 (現行は八巻二八品、「提婆達多品」と「普門品」の偈頌が付加)
・特徴  一般に流布している『法華経』

『添品妙法蓮華経』

・訳者  闍那崛多・達摩笈多
・訳出年 六〇一年
・構成  七巻二七品
・特徴  鳩摩羅什の訳にはない部分を補っています

このなかで、天台大師や日蓮聖人が用いられた『法華経』の翻訳経は、鳩摩羅什の訳した『妙法蓮華経』です。『無量義経』・『妙法蓮華経』・『観普賢菩薩行法経』を『法華三部経』といい、『妙法蓮華経』の開経が『無量義経』、結経が『観普賢菩薩行法経』となっています。

『法華経』の内容は二十八から構成されており、これを、「一部八巻二十八品」と呼称します。一般的に法華一経を序・正・流通の三段に分ける「一経三段」と、「二門六段」(「二経六段」)として、本門(本仏)と迹門(垂迹仏)を分類するしかたが通例となっています。『法華経』には衆生を化導するための譬喩が、七箇所にが説かれています。これを「法華七喩」といいます。

日蓮聖人は「五重相対」という見解から、『法華文句』に説かれた「二門六段」の本迹二門を用いています。とくに、「本門八品」を重視し、「一品二半」、寿量品の「文底秘沈」という教学に高めていきます。これが『観心本尊抄』の「四種三段」です。

「四種三段」とは、『華厳経』から『涅槃経』まで、釈尊一代の仏教を序・正・流通の三通りに区分した「一代三段」、『法華三部経』を三通りに区分した「一経三段」(「十巻三段」)、十巻を二分した「二門六段」(迹門三段・本門三段)と、「本法三段」を立てています。

この「本法三段」は、「一品二半」「題目五字」、「彼脱此種」の「一念三千仏種」の「末法下種」を論じる教相となっています。

(法 華 三 部 経 )

【開経】無量義経    曇摩伽陀耶舎訳 四八一年  

序分  ・無量義経徳行品第一

正宗分 ・無量義経説法品第二

流通分 ・無量義経十功徳品第三

 (二 門 六 段 )

【本経】妙法蓮華経      (法華七喩)

 迹門ー開三顕一・開権顕実

迹門の序分  

 ・序品第一

迹門の正宗分 

・方便品第二

・譬喩品第三    (三車火宅喩)

・信解品第四    (長者窮児喩)

・薬草喩品第五   (三草二木喩)

     ・授記品第六  

     ・化城喩品第七    (化城宝処喩)

     ・五百弟子受記品第八 (衣裏繋珠喩)

     ・授学無学人記品第九

 迹門の流通分 

・法師品第一〇

     ・見宝塔品第一一

     ・提婆達多品第一二

     ・勧持品第一三

・安楽行品第一四  (髻中明珠喩)

 本門ー開近顕遠・開迹顕本

  本門の序分

  ・従地涌出品第一五 (前半まで)

  本門の正宗分(一品二半)

     ・従地涌出品第一五 (後半から)

 ・如来寿量品第一六 (一品)

・分別功徳品第一七 (前半まで)

  本門の流通分 

 ・分別功徳品第一七 (後半から)

      ・随喜功徳品第一八

      ・法師功徳品第一九

      ・常不軽菩薩品第二〇

      ・如来神力品第二一

      ・嘱累品第二二

      ・薬王菩薩本事品第二三 

      ・妙音菩薩品第二四

・観世音菩薩普門品第二五

・陀羅尼品第二六

      ・妙荘厳王本事品第二七

      ・普賢菩薩勧発品第二八

【結経】仏説観普賢菩薩行法経

 (「四種三段」)『観心本尊抄』

     ・一代三段―『華厳経』〜『涅槃経』

     ・一経三段(十巻三段)

     ・二経六段(二門六段)

     ・本法三段―題目五字