31.気力

 箱根駅伝の復路でふらふらしながらも走りぬいた学生がいた。
 誰もがガンバってと声援した。
 中継のアナウンサーも思わず泣き声になり、となりでもガンバレと思わず叫んだ。
 足の痙攣、脱水にならないように細心の注意をする。でもミスったのか。
 そのミスを罵倒する者はいない。
 同じ人間として声援する。
 それは、タスキの重みなのか。
 意識が朦朧とするなかで、足がとまった。倒れるか。
 監督が抱きかかえるか、と思った瞬間、走り出した。
 後輩に言った一言は、「タスキを渡してくれ」。だった。

 責任感。それを行なうのは気力だと思う。
 つまり、精神力である。
 日蓮宗では、(けりき)と読む。
 体力の限界を超えてガンバルのは気力にかかってくる。
 へたばりそうになるとケリキが足りないと先輩に活をいれられる。
 風邪をひくとケリキが足りないからだと言われる。
 日蓮宗には百日の荒行がある。
 毎年、11月1日から2月10日まで千葉県の中山、法華経寺で行なわれている。
 朝は2時半起床。就寝は夜12時を過ぎる。
 一日七回の水行。ほかは読経、祈祷相伝。掃除雑用。
 35日を過ぎると、一般の人に祈祷が始まる。
 想定外の厳しい修行である。
 やさしくされるよりは厳しいほうがいい。
 多くの先輩のなかで、思い出されるのは厳しかった人である。
 いじめではなく訓育なのだ。
 その辛さのなかに強靭な精神力を養ってくれたのだ。
 なぜ、修行は厳しくするのか。
 それは、坊さんは仏教の教えを伝えるというタスキを持っているからだ。
 それを教えず、学ぼうとしないから批判されるのだ。

 正月の駅伝をみて再認識させられた。
 人は一生懸命に涙す。
 そして、みんなが感動した。
 されば、坊さんが不惜身命の姿になれば、合掌して下さることを。