5.夫よりペット

 人間とペットは違うことを知りながらも唖然とさせられたと言う同業者の話しです。
 ご主人が亡くなられて先ず寺に連絡、枕経に行くと葬儀会社は遺族と打ち合わせ中。お経をおえてお通夜、告別式(葬儀というべき)の時間あわせ。ご主人の遺言とのことで質素な葬式。
 お骨あげを終え、親戚の便宜のためと言うことで四十九日の繰越法要。納骨は日曜日には皆が集まるということで早めの納骨。
 ここまでは、まあ驚かない話しですが。
 数日後、この奥さんからその寺に電話が来た。
 何事があったのか電話のむこうから泣き叫ぶ声がする。やっと落ち着いたのか話しを聞くと十五歳の誕生日のお祝いを迎えたばかりなのに急死したので、今すぐ枕経に来て魂を安らげて欲しいとのこと。
 てっきり友人はお孫さんが亡くなったと思い、「それは大変なことになりましたね、先日の葬儀にはお元気でいらしたのに。あんなに利発なお子様でしたからなをさらお悲しいことでしょう。今すぐ参りますのでお力を落とさないように」と電話を切り、「あぁこんな悲しい葬式はこたえるな」と奥さんの家にと急ぐ。
 家の前に着くと車の中にいても泣き声と嗚咽が聞える。周りに車がないのでまだ親族の方は見えてないんだなと玄関に入る。居間には長男の方が居てテレビを見ながら悠然として新聞を読んでいたそうです。
 あぁこれはチョット違ったなと思ったとき、「ばぁちゃんの飼ってる犬が…」と、「やっぱり」と思ったが気持はお孫さんが亡くなったと思っているから、振り向いてお孫さんの立ち姿を見た瞬間、うかつにも幽霊と思い腰を抜かしてしまった。
 話はこれからなのですが、そのペットの葬儀は贅を尽くしたものだったそうです。葬儀は質素にという遺言はないから、最高級の棺おけの蓋が閉まらないほどの衣服やフードと玩具。
 金塗りのお位牌も骨袋も特別注文。お骨あげから四十九日までお犬膳とお塔婆をキチンとしたそうです。
 ペットに対する愛情はペットを飼っていたからわかるのですが、ただ、四十九日もあんなに悲しんで人目も気にせず泣いている姿を、ご主人の葬式には想像もできなかったという話です。そして、納骨のとき、「私のお骨と一緒にして下さい」と頭を深々と下げられたときには言葉を失い、あれが唖然ということかなと思ったそうです。それほど情愛を感じるペットでも、税法上はただの物です。寺に納骨の場合は倉庫業に、埋骨は不動産貸付業にあたるそうです。これからは、ペットも人も同様に扱っていただきたいものです。
 さて、人もペットも同じ命を持ち、懇ろに弔うてあげるべきです。大切な人やペットを失うことは寂しいことです。亡くなった者へ安らかにと願うのは自然な心です。
 僧侶はその橋渡しをします。お戒名料とかお布施の問題ではありません。純粋に弔いの心を持ち、死者を思って泣いてあげることが大事だと思います。
 私たちが死を迎えたとき泣いてくださる人がいるように生きましょう。
               (葬式に関して教箋2の8にもふれていますのでお読み下さい。)