70.聖地 冨士山                                    高橋俊隆

冨士山が世界遺産になり喜ばしいことです。古代から冨士山は霊山として信仰されてきました。

日本人は古来、山岳信仰をもつ民族の集まりです。山岳信仰とは山々を神の領域とし、山そのものの自然を崇拝の対象とする信仰です。狩猟や農耕を糧とする民族は、山岳を生活の根源として敬います。山は恵みを与えてくれる神の領域として崇めるのです。どうじに、恐ろしい場として山を畏敬します。四季を通じておきる自然の災害にたいして、それを回避するための強い願いがあります。山に霊的な力が作用していると受け止めます。これを、山の宗教といいます。

富士山頂部には「八葉」と呼ばれる八つの峰があります。白山岳、久須志岳、大日岳、伊豆岳、成就岳、三島岳、駒ヶ根岳、剣ヶ峰の八つを富士山八葉と称してきました。古来、仏教でいう八葉蓮華(はちようれんげ:仏が坐る八枚の弁をもつ蓮華座)にたとえられていたことに由来するものです。

日蓮聖人が富士山近辺を布教された伝承と事跡が各地に伝わっています。日蓮聖人は文永六年の五月に、久本房日元を案内として、冨士・甲州の巡業にでられています。そして、夏頃に法華経二八品を、冨士山の北口、五合目付近に埋経されたといいます。その場所を「経ヶ岳」(経ヶ森)といいます。 

 冨士山の世界遺産指定は、条件付きといいます。三年後に見直しがされます。そのとき環境汚染や、信仰の霊地としてそぐわなければ除外されてしまいます。世界の宗教者は信仰の聖地が汚されることに敏感です。聖地は清浄な場であるのが当たり前のことなのです。その聖地にゴミを捨てることは考えられないというのが世界の常識なのです。

 冨士山は観光登山ではなく、信仰を胸に懐いて登詣をする聖地であることを認識しましょう。