60.精竜の滝(9) 落葉きのこ

 9月になると山は宝庫になります。きのこです。
 尼さんは8月から、毎日のように山に入ります。
 雨が多く肌寒い年の7月に落葉きのこを見つけたこともありました。
 この、きのこ狩りは12月の雪がふっても続きます。

 森木さんの家の奥の林でたまごきのこを採ったり、一番はやはり余市のきのこでしょうか。
 先日の余市での石栗さんのご本尊祭に、ご主人が採ってきた落葉のお味噌汁をいただきました。なすが入ってとてもおいしく、妙宣さんと私は、尼さんのことに話がすすみました。

 岡崎さんも、いつも尼さんに落葉を採ってきてくださいます。
 今回の石栗さんのお参りにもたくさんもってきてくれました。これで二回目なので、落葉は少なくなっているので、大変だっただろうなと思っていました。
 岡崎さんも例年のように、尼さんに落葉をお供えしようと思い、さて、どこに採りにいったらいいものかと考えていたそうです。そんなときに、尼さんが、
 「家の前にあるから・・・」
 と言われたそうです。
 岡崎さんの家の前の野原に植えられた落葉の小さな木の回りに、落葉がいっぱい出ていたというのです。
 「尼さんに教えてもらった。」
 というのです、

 尼さんの遺言のような願いは、落葉きのこを採って位牌の前に上げて欲しいということでした。
 片手にのるだけでもいいから、可愛らしい落葉を二つ三つ上げて欲しいというのが、尼さんの願いでした。
 昭和63年に尼さんがなくなってから、今年も落葉きのこを尼さんに上げることができました。
 余市の岡崎さんを始め、亡くなった谷藤さんなど、たくさんの人が落葉を持ってきて下さいました。

 この季節になりますと、尼さんが白いワイシャツを着て、頭に日本手ぬぐいをかぶり、精竜の滝の周辺を歩いていた姿を思い出します。
 山を歩いていることがうれしそうでした。
 私達弟子は、倒木をかたずけながら、それを道場に運びマキにします。
 草を刈り、マキを作ったりしているときは、ただの労働に思いましたが、時を経るに従い、それが修行だったことがわかります。
 尼さんの辛抱強く、何事にもやり通す姿こそが、法華経の修行者の姿勢だったと思うのです。