4.尼さんの日記より(4)

 私たち一同も今日の日までいろいろの苦労、今日の嬉しさに泣かぬ人とてありません。私はこの13日の夜より行堂に入り、毎日お滝で水行し御修行させてもらうことになっています。
 さて、これから私の修行です。N子25歳と二人暮らし。時々お上人が来て下さる。18日、いつものようにお寺に行く。今日も良い天気。お滝を頂き「自我偈」一品、陀羅尼品一品、お題目をお唱えして帰る。この日はお滝へ二度水行に行く。
 ところが、お滝の流れの急なところから一個の石がコロコロと、木の葉が水の中で舞うようにして舞いながら流れて来たと言うか、コロガッテきたというか、手に取って見たところ人の顔に見える。持って帰ろうと思ったらまた一個。二個ともはっきり人の顔でドクロの顔。持ち帰り御宝前に供えました。
 今日は22日。今はお滝を三度頂いています。22日の夜は星がきれいに出て月がコウコウと光をはなし家のランプの光りが暗いぐらい。そこで、寝る前に御宝前の前の窓を開けお滝に向かい、月に手を合わせ神力品の「日月の光明のよく諸々の幽冥を除くがごとく〜一乗に住せしめん」とお唱えした。今夜はもったいない夜だがランプの経済のため寝ることにし、Nちゃんが床をのべているとき私がプロパンガスの元栓が閉まっているか調べながら又月に手を合わせて前をヒョット見た。
 一面雪で真っ白なのに黒い石のような物がある。それも大きなので変だ。あそこに石がなかったがなぁ?----見ているとモクモク動き出した。私はハッとして一枚だけ窓を閉めたが、窓に鼻をペッタリつけて目をパチリともせず見ていた。
 「熊だ!」前の川を渡ってきたら何とする。心臓はパクパクしてくるがしばらく動かず見ていた。
 クマの来たときのことを考えNちゃんには言わず、御宝前のお供物を食べているうちに裏口から逃げることを考え床へ入ったが、いま来るかいま来るかとお経をあげ通し、そのうちに眠り目が開いたときは朝でした。
 30日。今は一日四回の水行。今日もお滝よりドクロの石が手に入り三体となりました。
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 このようにして十二月も過ぎ一月三日KさんとNさんと替わりKさんと暮らすようになりました。
 毎日、雪と戦いながら一日四回お滝へ水行に行っています。お正月は除夜の鐘を合図にお経があり、私の熱湯の祈祷をするため。
 熱湯の祈祷というのは熱湯の中へ手を入れて一人一人お加持して上げるのです。
 さて13日、お滝の雪を除雪しながら滝へ行き、水行の用意をして来ようと思ったが、もどるのがおっくうでそのまま裸のまま水行はしたがタオルもなく、ハダギで体をふき雪除きをかついでお題目を唱えながら足元を見つめて帰りだした。
 私は滝から登る。---上から大きな出家さんが降りてくる。網代笠を深くかぶり、アズキ色よりも黒っぽい衣に白の着物はもう洗いざらして黄色。手には木の皮の所々付いたハゲチョロの杖。足は白くきれいな大きな足。
 私は頭を下げて道を開けた。二足三足歩いてすれちがっただろうか。お坊さんの一言。その一言は低い太い巾のある声。