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私、聞く 「お歳をめしておいでですが、どうして定山渓を後にしたのですか」 定山坊さん 「・・・・・・・・・」 私、聞く 「人の話ですと、お上人さまは定山渓を病気の方の湯治場にするといわれ、他の方々は温泉発展のため女を置くとのことで、イザコザがあったとか聞いていますが本当ですか」 定山坊さん 「それはありましたが、拙僧はそんなことで山に入ったのでもなし問題でない。理由はほかにある。なぜ聞くのか」 私いわく 「実はお上人さまご存知のとうり、この道場が建ち、お上人にお会いし、定山渓に行き、お上人さまのお姿、法衣、色々見せていただき、お上人さまがこの滝で亡くなったと思い、法華経でお上人さまの石塔を建立したいと思っております」 僧 「こころざしは嬉しく思うが、そのようなことをしていただく拙僧ではない」 悲しそうな顔をして 「山へ入った理由は宗教の迷いじゃ。自分のたもつ宗に迷ったのじゃ。情けないことよのう」 私 「たとえ宗教の迷いとはいえ十二月も末に、その当時は雪も多かったでしょうが、どうして雪の消えるまで定山渓にいなかったのですか」 僧 「自分の命である宗に迷いをもった、雪が消えるまで待てると思うか。月日を考えず斧(手斧)一つで山に入った。前に来た道と思ったのが道に迷いこの滝に出た」 私 「雪が多いのにどうして山で暮らしたの」 僧 「拙僧は男じゃ。斧一つで小屋は立つ」 私 「その家は」 僧 「滝の近くで、滝を背に北じゃ」 私 「九十年の今日でも、その後があるか」 僧 「あると思う。それは石で金の付いている光る石で、高さ四尺ぐらい、横二尺以上もある石で、土に埋もれて立っているが右肩が出て左の方は土の中」 私 「雪が多いのに何を食としていた」 僧 「僧にあるまじき殺生をした」 私 「水は滝の水ですか」 僧 「コクワの木の水を」 私 「冬でもコクワの水が出るのですか」 僧 「切ってみるがよい」 私 「石塔を建立するに入寂の月日が知りたいのですが教えて下さい」 僧 「三月十日じゃ。このくらいでもうよいではないか。あの滝のそばであまり詮索するでないと言ったではないか」 私 「すみませんでした。もう一言だけお伺いさせて下さい。毎夜カーテンを開けた音や、部屋の中へ風をおこしたり、玄関を開ける音をさせたり、外でサクサクと歩いたりしていた方はお上人さまでしたか」 僧 「外を歩いたのは私だが、一度もこのお堂には入らなんだぞ。イヤは入れなかった。昼も夜も来ては読経を外で聞き、外で合掌し、そなた達の力強さをうらやましく思って自分がつらかった。お堂に入れていただいたのは今日がはじめてじゃ。驚かしてすまなんだ」 私 「そうでしたか。これからはどうぞいつでもお出で下さい。五月、雪がとけた時、お上人さまのお御堂を建てさせていただきます。それまで待ち下さい。いろいろと有り難うございました」 私と定山坊さんの話です。 それから後、定山坊さんの言われた石(金の入った石)の話をしたところ、石はありませんでしたが、三年前ある方が(名前は申されません)持っていったそうです。この石は金と六方石ですごいお金になる石で実にきれいな石だったと、上田さんも安藤さんも見て、笹で隠してあったそうですが、トラックで持っていったそうです。 まだまだいろいろ不思議なことがたくさんこの行堂にあります。 合掌 |
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